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心理学ってなんだろう

デジャビュ現象はなぜ起こるのですか?

はじめて行った場所なのに,以前にも来たことがあるような気がするのはなぜですか?



A.楠見 孝

こうしたはじめての経験(ある場所を訪ねる,人に会う)について,以前経験したことのあるような強い懐かしさを伴う印象(既視感)が起こる現象をデジャビュ現象といいます。


デジャビュ現象は,小説によく登場しますが,最近までその認知心理学的研究は盛んではありませんでした。その理由は,デジャビュが,てんかん患者などにおける記憶異常の問題として扱われ,健常者では,疲労やストレスなどによってまれに起こる現象という見方が支配的であったためです。しかし,内外の質問紙研究によると,デジャビュ経験率は,健常者で3分の2くらいあります。私が,大学生202名に調査した結果では,場所のデジャビュは63%,人のデジャビュは35%が経験しており,どちらかの経験がある人は,72%でした。したがってデジャビュは通常の認知メカニズムとして考えられます。


デジャビュの起こる原因の1つは,記憶における類似性認知メカニズムの働きです。たとえば,私たちが,ある経験をする(たとえば場所を訪れる)ときには,類似した過去経験が自動的に想起されます。そのとき,現在の経験と過去経験の類似性が高いほど,既知感が高まります(未知感は逆です)。ここで,デジャビュ現象は,とても強い既知感があっても,(エピソード記憶や関連知識などに基づいて,たとえば「この地方,この場所に来たことはない」と)未経験であることを認識している点がポイントです。これが不思議な出来事として体験される原因です。


デジャビュ内容に関して,103名の大学生に16の場所・場面をあげて,デジャビュ経験の有無を尋ねたところ,並木道,古い町並み,公園,校舎,寺社などは,3割以上の人が,デジャビュ経験を報告していました。これらの光景は,しばしば目にし,しかもその光景は相互に類似しています。図に示すように,人は,これらの光景を繰り返し見ることによって,その光景は重なり合い,細部は失われた形での典型的光景(たとえば,寺であれば,山門から本堂までの石積みの階段)が記憶内に形成されます。そして,新たに目にした光景が記憶内の典型的光景と類似し,複数の手がかりが合致すると既視感が起こると考えられます。典型的な光景ほど,(見たことがないのに見たことがあると感じる)虚再認を起こしやすいことは,さまざまな寺の写真を用いた実験でも見いだされています。ほかにも,デジャビュの説明としては,脳機能障害(前頭葉における軽い発作,神経回路網の伝達の一時的障害),分離知覚(ある知覚経験が2通りの処理で保持される)などがあります。



文献

Kusumi, T.(2006).Human metacognition and the deja vu phenomenon. In K.Fujita & S. Itakura(Eds.),Diversity of cognition : evolution,development, domestication, and pathology. Kyoto:Kyoto University Press. pp.302-314.


くすみ たかし
京都大学大学院教育学研究科助教授。 専門は,認知心理学。
主な著書は,『比喩の処理過程と意味構造』(風間書房),『芸術心理学のかたち』(分担執筆,誠信書房)など。


心理学ワールド第32号掲載
(2006年1月15日刊行)