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心理学ってなんだろう

人が浮気するのはなぜ?

「彼氏,タイプだし,優しいし,申し分ないんですけどぉ……。嫌なんですぅ。浮気するんです。元彼も浮気したので,別れたんですけどぉ……。先生,男の人ってみんな浮気するんですかぁ。」



A.齊藤 勇

最近は恋人同士でも,別の彼氏,彼女と付き合うと浮気,というらしく,ごく,一般的に浮気という言葉がキャンパスの中でも行きかっています。そんな矢先,本誌『心理学ワールド』の編集の先生から浮気心理の原稿依頼がきました。 「先生はこのテーマの第一人者ですのでお願いします……」と。


たいていのテーマですと,その評価はありがたく,たとえ社交辞令としても悪い気はしないはずなのですが……。今回のテーマでは,苦笑せざるを得ませんでした。当の先生に,「ということは,私が浮気研究の第一人者ということですか??」と尋ねると,先生も口ごもっていらしたので,困らせてはいけないと思い,引き受けることにした。


そんな私の苦笑は,浮気が心理学の研究テーマとして,まだ認知されていないことの表れなのでしょう。これが恋愛というテーマならもう少しすんなり受け入れられたはずです。しかし,私の学生時代は,恋愛もキワモノ的な扱いをされていたように思います。ハットフィールドの『恋愛心理学』には,アメリカにおいても,当初,恋愛研究が米議会から批判されたと記されています。恋愛研究への評価はこの半世紀で大きく変わったのです。浮気研究も,そうなるかもしれません。ハットフィールドはその本の中で,恋心は,もって半年だ,といっています。ということは,恋心は移り気で,浮気心は誰にでも生じるものだといえそうです。人は認知的に,反転図形の一方を見続けることができないのと同様に,感情的にも,飽きっぽい特性をもっているのではないか,と思えます。その上,好奇心が強いので,浮気の心の芽がそこに潜んでいるようです。


街で素敵な女性を見つけたとき,目を留めない男性はいないはずです。彼女や奥さんがいる男性でも,目は留まる,はずです。その目は,すでに浮気しているともいえましょう。もちろん,だからといって皆,行動に移るわけではないでしょうが。でも,浮気の心は生まれているのです。では,男性読者に聞きますが,そんなとき,その素敵な女性が積極的に,誘ってきたら,どうしますか。考えてみてください。クラークらは見知らぬ人からのセックスへの誘いの実験を行っています。キャンパスで,1人で歩いている男性に,女子学生が近づき「前からずっと気になっていたんです……。今夜,一晩,一緒にいたいのですが!」と言うのです。この誘いにのりますか。実験の結果,75%の男性がイエスと答えています。残念ながら,この実験ではチェックされていないのですが恋人がいる男性も少なくなかったと想像できます。この結果は,男性の多くは,セックスの誘いにのりやすいことを示しています,つまり,浮気しやすいのです。逆に男子学生が女性を誘った場合,初対面ではイエスはゼロだったのです。こんなに性差が出る実験はなかなか見当たりません。では,女性は,浮気はしないのでしょうか。男だけでは,浮気は成立しません。この実験,セックスだけではなく,デートの誘いの実験も行っています。その場合,半数以上の女性が,イエスだったのです。もし,女性に彼氏がいたら,浮気の心あり,ともとれます。


ただ女性の場合,浮気より不倫のほうが多いといわれています。その説明は最近は進化論的説明がなされています。進化心理は化石が見つからなくて困りますが,浮気や不倫にはいたって寛容な理論です。生涯恋愛時代といわれる昨今,浮気も社会心理学のテーマとして,大いに研究される日も近いかもしれませんね。



文献

さいとう いさむ
立正大学心理学部教授。
専門は,対人心理学。
主な著書は,『日本人の自己呈示の社会心理学的研究』『対人感情の心理学』『人間関係の心理学』『対人社会心理学重要研究集』(以上,誠信書房),『図解雑学恋愛心理学』(ナツメ社)など。


心理学ワールド第40号掲載
(2008年1月15日刊行)